大判例

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東京地方裁判所 昭和28年(ヨ)3064号 判決

債権者 管野としゑ

債務者 宮本由松

一、主  文

本件申請はこれを却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

二、事  実

一、請求及び答弁の趣旨

債権者代理人は、「債務者は債権者に対し、昭和二十七年七月十日から、原告宮本としゑ対被告宮本由松間の東京地方裁判所昭和二十八年(タ)第八〇号離婚届無効戸籍訂正請求訴訟の判決ある迄一ケ月当り金二万円宛毎月末日限り債権者方に持参して支払わなければならない。」との判決を、債務者代理人は申請却下の判決を求めた。

二、債権者代理人の主張

債権者は債務者を昭和十一年十一月十八日婚姻し極貧のうちからともに刻苦努力した結果、子女六人を挙げ債務者の自動車運輸事業は発展の一途をたどり債務者は今日では約五千万円の資産を有するに至つた。しかるに債務者は素行不良で多くの婦人と関係し家庭をかえりみず、昭和二十七年六月頃からは妾を自宅に連れこみ債権者を邪魔物扱いにし乱暴の限りを尽くし、遂に債権者に無断で昭和二十八年一月十八日、子の親権者を債務者と指定した協議離婚届を偽造し、本籍地役場に届出るような所為を敢てするに至つた。その後債権者は益々債務者から圧迫をうけ遂に居宅から単身追出されたので、知人の久保田敬忠方に身を寄せ収入もないままに同人の好意にすがつて今日迄辛うじて生活を続けてきた。

もとより右離婚届出は債権者の意思に基かない当然無効の届出であり、依然として債権者債務者は婚姻中であるにもかゝわらず、債務者は右のように債権者に対する扶助義務を尽くさない。よつて債権者は債務者を相手取り東京家庭裁判所に離婚無効確認及び夫婦間の扶助請求権にもとずく扶養料の支払を求める調停を申立てた。しかし調停は遅々として進行しないので、今回東京地方裁判所に請求趣旨記載の訴訟を提起したが、なおこれとは独立に扶養料支払の本訴をも提起しようとするものである。債権者はこれらの事件の判決を待つていては到底生活を維持することができない苦境にあるので、この危険を避けるため必要な生活費として、債務者の資産状態も考慮し、請求の趣旨記載のような金額の支払を求めるものである。

三、債務者代理人の主張

債権者の主張中、婚姻の事実及び離婚届出の事実は認めるが、右届出が債権者の意思に基かぬものであるとの点は否認する。

即ち債権者は昭和二十七年五月頃から家事を顧みず無断外泊を重ね家庭に寄りつかないばかりでなく、債務者が病臥したときにも看護しないなど態度が冷くなつてゆくので、債務者は同年九月頃債権者を追究したところ、意外にも債権者は従来小田川照巖なる男と姦通していたことを自白し、債務者のその後の調査の結果右は真実と認められた。よつて債務者は同年九月十日債権者の実母を招致しこれまでの経過を話したところ、実母もその非を認め債権者に身を引かせるとてその荷物を引取つた。ついで債務者は同月二十七日知人塙英治方で同人及び債権者と協議の上、債権者は当分家を出て別居し、その期間中の債権者の生活費月六千円及び間借費は債務者が支給し、子供は債務者が養育すると定め、債権者は同年十月十八日家を出て別居した。この間債権者は小田川と絶交して手切金を取つて来たと虚偽のことを言つたり、又別居後も屡々来訪して子供らと口論をし叱責すれば立去るなどの所為があつたので、債務者も意を決し同年十二月二十四日債権者をその寄宿先大林秀光方に訪ねて同人立会の上債権者と協議の結果離婚することになり、その場で離婚届に双方署名指印し大林を債権者の実妹椎名アサ子が証人として連署した。ついで債権者は同月二十七日債務者方に来り子供は全部債務者に委せた故扶養料等一切の財産的請求はしない旨申入れたのである。その後離婚届が提出されたことは債権者主張の通りである。されば右届出は当事者双方の意思に基いてなされたものであるからこれを無効とするいわれはなく、従つて債務者は債権者を妻として扶助する義務を負わない。

なお、債務者が自動車運輸業を営むこと、当事者間に子女六人あることは認めるが、債務者が資産五千万円を有することは否認する。

四、<立証省略>

三、理  由

債権者の主張によると本件申請は、当事者間の協議離婚が債権者の真意にもとずかぬ当然無効のものであることを理由として、夫たる債務者に対し夫婦間の相互扶養の規定(民法第七百五十二条)にもとずき仮の地位を定める仮処分として扶助料の請求をなすにあつて、夫婦間において特になされた金銭支払の契約に基きその履行を求めるものではない。

従つて本件仮処分の本案の請求権は民法第七百五十二条にもとずく権利というべきところ、かゝる夫婦互助に関する請求権の存否及びその程度方法を決定するにつき管轄権を有するのは、専ら家庭裁判所であつて地方裁判所ではないと解すべきである。即ち裁判所法第三十一条の三第一項第一号に、「家庭裁判所は家事審判法で定める家庭に関する事件の審判及び調停をなす権限を有する。」と規定され、これをうけて家事審判法第九条に本件のような夫婦間の協力扶助に関する処分事件もふくめ家庭裁判所の権限に属する家庭事件が列挙されていることは、かゝる家庭事件を専ら家庭裁判所だけが取扱うべき法意であつて、民法人事訴訟手続法その他の法規にその旨の規定のない限り、かゝる家庭事件を地方裁判所においても審理判決することができると解する訳にはいかない。従つて本件扶養料請求は独立して地方裁判所にその本訴を提起することはできないのである。又家庭事件であつても、家事審判法第九条乙類第四号、第五号に定める婚姻の取消離婚に伴う子の監護、財産分与の事件は、人事訴訟手続法第十五条により、婚姻取消、離婚請求と併合する場合に限り地方裁判所でも審判しうるが、夫婦間の協力扶助に関する事件については離婚無効確認訴訟と併合を許した規定はない。従て本件の本案の請求を本件当事者間の離婚無効確認訴訟に附加して地方裁判所に提出することもできない。

以上の理由により、本件の本案たる扶養料請求は家事審判法第九条乙類第一号の審判事件として専ら家庭裁判所において同法に従い審判すべきものであり、これを本案とする仮処分もまた同法及び家事審判規則に従い非訟事件の例によりその許否を決すべきものであつて、地方裁判所は本件について本案の管轄権を有しない。本件申請は民事訴訟法にもとづく仮処分で、従てその本案訴訟は地方裁判所に提起せらるべき筋合のところ前示の通りそれは法律上許されないところであるから、結局本件仮処分の申請は不適法となさざるを得ない。よつてこれを却下し訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 谷口茂栄 田中正一 沖野威)

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